Macが独自プロセッサ「アップル・シリコン」によって新たに生まれ変わる意味

Macが独自プロセッサ「アップル・シリコン」によって新たに生まれ変わる意味

通常、メインプロセッサを変更するというのは心臓を入れ替えるような手術をするようなもので、簡単にできるような話ではない。仮に、移行に失敗すると現行のシステムが動かなくなる上に、ユーザーの信用もサードパーティーの信用も失って一気に凋落する要因と化す。ところが、アップルは、その長い歴史の中で、「68K」「PowerPC」「Intel」と三度に渡ってCPUを変更しており、そのたびに移行を成功させてきたという希有な経験を持つ企業である。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019メディア『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

CPUアーキテクチャーを変更するアップル

コロナ禍による「非接触」でリモートワークが増えて、人々がノートブックやオフィス製品を揃えることになり、マイクロソフトが社会人にとっても投資家にとっても共に重要な企業に復活したのが2020年に起きたことだ。

しかし、それはアップルの凋落を意味しない。いくらステイホームの時代になったとしても、人々は出かけなければならないし、出かけるのであればスマートフォンを忘れることはない。

スマートフォン市場で重要なプレイヤーであるアップルとグーグルの重要性は、今後も長く続いていく。

そのアップルが、2020年6月22日。重大な発表をしている。CPUアーキテクチャーをARMベースの「アップル・シリコン」に変更するというものだ。

これによって、何が起こるのかというと、「iPhone、iPad、Mac」のさらなる統合である。iPhoneやiPadのアプリケーションが、MacOSでも動作するようになり、やや物足りなかったMacのアプリが爆増する。

そして、この統合によってユーザーは「iPhone、iPad、Mac」をアプリケーションによって自由に行き来することが可能になる。これは以下にユーザーにとってメリットであり、開発者にとってもメリットであるのかが分かるはずだ。

iPhoneから、iPadへ、iPadからMacへと、デバイスを切り替えながら仕事ができるというのは、効率性がさらに上がるということでもある。これはユーザーも、開発者も、アップル自身も、そして投資家も待ち望んでいた未来である。

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「68K」「PowerPC」「Intel」という変遷

通常、メインプロセッサを変更するというのは心臓を入れ替えるような手術をするようなもので、簡単にできるような話ではない。仮に、移行に失敗すると現行のシステムが動かなくなる上に、ユーザーの信用もサードパーティーの信用も失って一気に凋落する要因と化す。

ところが、アップルは、その長い歴史の中で、「68K」「PowerPC」「Intel」と三度に渡ってCPUを変更しており、そのたびに移行を成功させてきたという希有な経験を持つ企業である。

そのため、今回のIntel系からARM系の変更も、過去の経験を活かしてかなりうまくOSの移行をするのではないかと予測されている。少なくとも今のところ「心臓部の変更」に関して危惧を抱いている関係者はいない。

基調講演(Apple Special Event June 22, 2020)を見ても、幹部クレイグ・フェデリギはすでにARM系の独自CPU「アップル・シリコン」で動作しているMacと新しいOS「Big Sur」を使っている。

「アップル・シリコン」に最適化されたアップル製品や、マイクロソフトのオフィス、あるいはアドビCCを動作させているので、移行にかなりの確証を持っているのが見て取れる。

私自身は20代の頃からアップルの製品を使い続けており、アップルの変化と共に「68K」「PowerPC」「Intel」のすべてを保有した。

ちなみに、マッキントッシュは全部合わせると10台くらいは買っていると思う。68KではMacintosh Quadraを保有していて、メモリ1メガが1万円の頃に40メガをQuadraに積んで、20代の頃に150万円超えのマッキントッシュを保有していた。

ちなみに、私は決してコンピュータマニアではない。初めて使ったコンピュータが「Macintosh SE」だったので、他のコンピュータを覚えるのが面倒でアップルを使い続けているうちに今に至っている。

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新しくなるMacと、それが生み出すイノベーション

アップルは一時期、倒産寸前にまで凋落してしまったのだが、スティーブ・ジョブズが1996年に復帰してから「iMac」で劇的に復帰、それから音楽デバイスの「iPod」で新しい時代を切り拓き、「iPhone」から「iPad」へと成長を推し進めてきた。

アップルの研ぎ澄まされた製品とデザインにこだわる企業風土はスティーブ・ジョブズが作り上げてきたものだが、ジョブズは2011年10月5日に癌で死去している。

以後は、ジョブスの精神を具体化してきたデザイナーのジョナサン・アイブの設計がアップルを率いてきたが、このジョナサン・アイブも2019年にはアップルを去った。

アップルを支えてきた創業者やデザイナーが去っていった後のアップルがどうなるのかはとても興味深いものがあったが、現在のCEOであるティム・クックは非常にうまくアップルをまとめており、アップルを世界最強の企業へと成長させ続けている。

ただ、ジョナサン・アイブが去る前後にはアップルはサービス分野に力を入れるようになっており、企業の体質が変化していくのではないかという危惧が囁かれていたのも事実である。

ハードウェア事業からサービス事業に変化するということは、もうアップルは新しいものを生み出す精神を捨て去ることを意味しているのではないかという分析もあったし、今もそのように言う人もいる。

しかし、今後「アップル・シリコン」によって新しく革新されるMacと、それが生み出すイノベーションを考えると、アップルはまだまだ「ハードウェアとソフトウェアを統合した革新的な企業である」という確証が取れたように思える。

さらに今後もアップルは新しい分野で「iOS、iPadOS、MacOS、WatchOS」と密接に連携するデバイスを生み出す素地と余力がアップルにある。

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アップルという企業は、アフターコロナでも揺らがない

これは投資家目線で見ても、まだまだアップルは保有していて間違いない企業であるということでもある。

中国発コロナウイルスによって、アップルはサプライチェーンの寸断や開発の遅れによって、製品の発表が数ヶ月遅れになる可能性がある。実際、次のiPhone12は、いつも製品出荷が為される9月ではなく、10月にずれるのではないかという噂が根強く流れている。

これが意味するのは、一時的に売上と利益が減少してもおかしくない状況下にあるということだ。

発売の遅れによってハードウェア部門の売上が減少した分をサービス部門が埋めるというシナリオもあるので何とも言えないが、アップルの決算が下方修正されて株価が下落する局面は常に残されている。

このあたりが、コロナ禍によって逆に利益が上がりそうなマイクロソフトとは違う点だ。

しかし、長期で見るとアップルという企業の成長とイノベーティブな体質はまだまだ変わらない上に、独自プロセッサ「アップル・シリコン」を触媒(カタリスト)とした新たなイノベーションも期待できる。

アップルという企業は、アフターコロナでも揺らがないという見方を私は強く持っている。ウォーレン・バフェットはアップルに莫大な投資を行っており、長期保有するスタンスにあるが、これは正解ではないか。

私は投資対象ではなく、一ユーザーの視点でアップルという企業の成長や動向を楽しみにしたい。「アップル・シリコン」が搭載されたMacも、おそらくどこかのタイミングで買うことになるのだろう。楽しみだ。

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