「良くなる前には、いったん悪くなる」という現象を認識せよ

「良くなる前には、いったん悪くなる」という現象を認識せよ

新型コロナウイルスで状況は悪化していく一方だ。しかし、製薬会社は新型コロナウイルスのワクチンや治療法の確立に邁進しており、国民も沈静化のために自粛に協力している。そして各国の政府は巨額の金融緩和・財政出動を行って経済の下支えをしている。ということは、状況が悪化しながらも世界は問題解決に向かっている。こんな時代は、もう一度「Jカーブ」を思い出して欲しい。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019メディア『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

世の中は「即答」ではないので、いったん悪くなる

何らかの目標を立てると、それが実現する前にいったん逆の現象が起きるというのは、経済の世界ではよく認知されている現象だ。

企業が売上拡大のために新事業に取り組むとする。新事業を新しい柱にしようという意気込みがあっても、最初からすぐに新しい柱にはならない。売上拡大どころか、新事業が赤字を垂れ流して企業の全体の売上を落とすことがよくある。

ほとんどの場合、すぐに結果が出ないからだ。予期せぬ出来事が次々と起きる。予期せぬ出費も出る。予期せぬ障壁にもぶち当たる。それを超えて、やっと結果が出てくる。

他にもある。企業が業績の悪化を止めるためにリストラを決意したとする。リストラの目的は「人件費というコストを削減して利益を確保する」ところにある。しかし、リストラをした年度の利益は逆に大きく下がる。

なぜなら、リストラが進めば進むほど多額の退職金を支払う必要があるからだ。また希望退職を募るために退職金の割り増しも行われるので、なおさら出費がかさむ。

しかし、それを乗り切ると、当初の予定通り翌年度から利益を確保することができるようになる。

世の中は何でも「即答」ではない。だから、ほとんどの場合、目標から結果まで一直線ではない。紆余曲折がある。この紆余曲折が状況を見誤らせる。ほとんどの場合は、成果が現れる前に状況が悪化するのである。

投資でもそうだ。株式は「安い時に買え」とはよく言われる。しかし、安い時というのは問題が発生しているから安いのが普通だ。そのため、安い時に買ったら、買い値を割ってもっと安くなるような目に遭う。状況はどんどん悪くなるように見える。

しかし、状況の悪化が片付くと、そこから株価は上昇していく。成果が現れるのは「買った瞬間」ではない。まずは地獄をくぐり抜けてから天国に向かう。

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努力が反映されるのは「ずっと後」の話になる

何か目標を持って、それが達成されるまで努力したとする。普通、努力すれば努力しただけ、「すぐ」にそれが反映されると私たちは考える。

誰でもそれを願う。今日、努力したら、明日にその努力が反映して欲しい。

ところが、世の中はうまくいかないもので、努力しても努力しても、その努力が反映されるのは「ずっと後」の話になる。場合によっては、努力すればするほど逆に後退しているかのように見えることがある。

どうしてそうなってしまうのか。

その理由は、取り組んでいるものが「まだしっかりと身に付いていない」ことに起因する。まだ経験値が足りていないのだ。そのため、一定したパフォーマンスが発揮できない。

パフォーマンスが一定していない時、人は無意識に試行錯誤をする。この試行錯誤が後退に見える。

しかし、それは後退ではない。経験の積み重ねなのだ。「計画・実行・評価・改善」を何度も何度も繰り返して、どれが最も自分に効果的なのかを試している段階だ。

ここを通過すると、「何が良くて何が悪いのか」が経験値で分かるようになり、ここから急激に卓越した結果を手に入れることができるようになっていく。

「計画・実行・評価・改善」の段階でのパフォーマンスの悪化は後退に見えて後退ではない。そこでパフォーマンスが落ち込んでも、そこから伸びていくからだ。

目標に至る前の「いったん落ち込んで上昇する」というこの効果は、グラフにするとアルファベットの「J」に似ている。だから、これを「Jカーブ効果」と呼ぶ。

高く飛ぶためには、いったん低くしゃがんで飛ぶ。

高く飛びたいのに「しゃがむ」というのはまるで逆のことをしている。しかし、しゃがむと高く飛べるのは私たちは経験則でよく知っている。これも「Jカーブ効果」そのものだ。

津波も、最初から高波が来るのではなく、いったん引き潮になってから高波が襲いかかって来る。これも「Jカーブ効果」そのものだ。

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成果を得るまで、悪影響と見込み違いの連続になる

ちなみに、「計画・実行・評価・改善」はビジネスの現場ではPDCAと呼ばれている。

Plan(計画)
DO(実行)
Check(評価)
Action(改善)

この4つの頭文字がPDCAである。新しい事業、新しい目標、新しい技能を身につける過程でPDCAを行うと、必ずJカーブ効果のプロセスを辿る。

目標を立てて進んだら「即答」で成果が現れて欲しいと普通の人は願う。しかし、困難であればあるほど即答はない。

努力したら「即答」で答えが出ると思っていたら、すべてにおいて挫折する。

そもそも、PDCAという手法そのものが、「物事は即答で目標達成はできない」という現実を見据えて行われるものであることに気付かなければならない。

しかし、何度も改善を繰り返すうちに最適解が見えてくるようになり、物事が順調に動き出す。それが「Jカーブ効果」の特徴である。

困難な目標や大規模な目標を立てれば立てるほど、このJカーブ効果の現象が現れる。

現実には、この「Jカーブ効果」をしっかりと意識していないことによって、多くの人が努力の成果が実る前に計画や目的や努力を捨ててしまう。

浮上する大切な時期にあきらめて去ってしまうのだ。

確かに経験則で見ると、良くなる前には逆に悪くなるという現象を私たちは知っている。

「夜明け前が一番暗い」とは昔の格言だが、これもまた一種の「Jカーブ効果」であると言える。昔の人も、それに気付いていたのだ。

「高く飛ぶ前にはしゃがめ」「夜明け前が一番暗い」「Jカーブ効果」は、よくよく考えれば、みんな同じ現象を違う表現で言い表したものであることが分かる。

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Jカーブ効果でより合理的に生きることができる

もちろん、ありとあらゆるものが「Jカーブ効果」によって支配されているわけではない。無謀な計画、無謀な目標は、時として転落しかあり得ない場合もある。

しかし、この「Jカーブ効果」が当てはまる局面も、異常なまでに多いのも事実である。

物事を注意深く観察している人であればあるほど、「Jカーブ効果」という言葉を知らなくても、「良くなる前には悪くなる」という現象を本能的に知っている。

そして、人生に熟達した人であればあるほど、いろんなものが長期志向になる。状況が悪くなっても、「これはJカーブ効果の底の部分である」と思えば容易にあきらめない。

ところで、Jカーブ効果の底の部分で必要になるのは何か。

それは、言うまでもなく継続心である。「Jカーブ効果」を知っていても、どん底の部分ですぐにあきらめてしまったら急激に伸びていく部分にまで辿り付けない。

「継続は力なり」という言葉もある。これも「努力しても報われないどん底の局面で継続せよ」と言っているわけで、どん底に堕ちた時にこそ、意識しなければならないものだ。

得意絶頂の段階であれば誰でも継続できる。すぐに結果が出るのだから続けるのは簡単なのだ。本当に継続心が試されるのは、悪くなっている局面である。

「計画・実行・評価・改善」を推し進めて経験値を上げるには、継続心は必須であり、これが欠けていると目標に辿り付けることは絶対にない。

「Jカーブ効果の底の部分」では「計画・実行・評価・改善」を繰り返して経験値を上げることであると理解している人は、敢えて失敗すると分かっていることも経験値として採り入れるために実行することもある。

良い目標を立て、「良くなる前には、いったん悪くなる」というJカーブ効果をよく理解し、Jカーブのどん底の部分では継続心が必要であるということを理解すれば、より合理的に生きることができるようになる。

『一生食えるプロのPDCA(清水 久三子)』

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