
国民生活の根底が破壊されるような中で、株式市場が淡々と開いているということに違和感を感じる人も多いが、株式市場はなかなかしぶとい。自分の持っている会社が国家崩壊や恐慌で消えてなくなるというケースはあるが、それでも「株式市場そのもの」が恐慌や国家崩壊でなくなることはほとんどない。資本主義が生き続けている限り、株式市場という存在は消えることはない。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019メディア『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)
私たちの想定を超えるほどの激震を生み出している
新型コロナウイルスは、ますます世界経済とグローバル化と国民生活を破壊している。その破壊は想像以上だ。株式市場もパニックに襲われていると言っても過言ではない。3月16日も、NY株式市場は一時2700ドル超の暴落となって、三度目のサーキットブレーカーがかかっている。
すべての業種が通常業務が停止し、売上激減に見舞われていているのだ。いくらFRBが利下げや金融緩和をしたところで、問題は解決するわけがないので、企業収益のダメージを考えると「リスクは取らない方がいい」と誰もが考えて当然だ。
いつ回復するのかも分からない。アメリカの航空業界も経営が危機的になっており、政府に500億ドル(約5兆3000億円)以上の金融支援を要請したりしており、多くの企業が次々と利益警告を出している。
つまり、新型コロナウイルスは金融市場にも実体経済にも私たちの想定を超えるほどの激震を生み出している。
問題は「世界中が巻き込まれている」ということだ。一国だけの事態ではないのである。欧米も、中東も、アジアも、そしてこれからすべての途上国にも問題が広がっていく。
インドでもアフリカでも新型コロナウイルスは広がっていくが、医療設備が整っていない国々にまで広がると、問題は今以上にひどいことになってしまうかもしれない。
1ヶ月以内に解決する問題だろうか。いや、もっとかかるだろう。2ヶ月以内に解決するだろうか。そうであればいいが、そうでないかもしれない。
もし問題が解決しないのであれば、金融市場は「これから地獄に落ちていく」ということを意味している。誰もがそうならないことを願っているのだが、そうなってもおかしくない事態に突入している。
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世界大恐慌になってしまうのではないかと考える人も増えた
先が見通せない。実直のデータはすべてが悪化している。だから、株式市場は暴落につぐ暴落に見舞われている。世界中の中央銀行がどのようなメッセージを発しても効かないほどの衝撃となっている。
こうした状況なので、リーマンショックどころか「世界大恐慌になってしまうのではないか」と口にする人も増えてきた。
2019年12月の段階で「世界大恐慌になるのではないか」と言ったら、頭がおかしいのではないかと思われたかも知れないが、いまや世界中の人々がそう思うようになっているのだから、世界がいかに急変したのかが分かる。
世界大恐慌の再来になれば、株式どころではない。資本主義も死ぬのではないかと心配する人も出てきているのだが、果たしてどうなのだろうか……。
1929年10月24日、世界恐慌が起きた。株式市場は大暴落し、悲観した投資家たちが次々と屋上から身を投げて死んでいった。株式市場に関わっていた人間の100%が暴落に巻き込まれた。
この日から世界は猛烈なクレジット・クランチが発生し、これが第二次世界大戦を生み出す元凶となっていった。ところでその間、大混乱していた世界各国の株式市場は閉じていたのか。
いや、閉じていなかった。開いていたのだ。
株式市場は人々から見捨てられていたが、それでも開いていた。株式は売買しようと思ったら、普段と滞りなくできた。
この頃、日本もまた世界恐慌に巻き込まれており、それがきっかけで第二次世界大戦に飲まれていくのだが、空襲で街が焼き尽くされていく昭和19年の段階でも日本の株式市場は開いていた。
本当に株式は売買されていた。
この時、日本史上最強の企業と言われた満州鉄道も売買されていた。その後、日本は敗戦したが、やはり株式市場は焼け野原の中で再開され、戦争に生き残った戦前の株式も取引されていた。
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資本主義と一体化しているシステム
資本主義を振り返ると、イギリスも、ブラジルも、メキシコも、世界中であらゆる国が国家破綻をしているのが見て取れる。当然だが、そのたびに株式市場は未曾有の大暴落を繰り返している。
国民生活の根底が破壊されるような中で、株式市場が淡々と開いているということに違和感を感じる人も多いが、株式市場はなかなかしぶとい。
自分の持っている会社が国家崩壊や恐慌で消えてなくなるというケースはあるが、それでも「株式市場そのもの」が恐慌や国家崩壊でなくなることはほとんどない。資本主義が生き続けている限り、株式市場という存在は消えることはない。
資本主義を完全否定する過激な共産主義が国を覆い尽くしたら、それは「資本主義の死」なのだから株式市場も死ぬ。
しかし、そうでない限りは資本主義は生き残り、株式市場もまた生き残る。大恐慌、戦争、国家破綻くらいで株式市場は死なないのである。
株式市場は資本主義と一体化しているので、この両者は切り離せない。だから、大混乱が来ても株式市場が死ぬことを考える必要はない。社会が大混乱した時は、株式市場よりも自分の命の方が先に消える確率の方が高まる。
株式市場よりも、現物資産の方が頼りになると考える人も多い。たとえば、脆弱な政府の中で生きる国民や、国を持たないで流浪するユダヤ人は現物資産を重視している。
しかし、ユダヤ人がナチスに捕まったとき、全裸にされて現物資産を奪われ、金歯も取られ、完全に「丸裸」にされたことはよく知られている。
1975年に南ベトナムが崩壊したとき、共産主義を嫌ったベトナム人がボートで国を脱出したが、彼らの多くもゴールドを隠し持っていた。しかし、そのゴールドを狙った海賊がマレーシアにもインドネシアにも発生して、海の上で彼らの持つ現物資産の奪い合いで大量虐殺が起きた。
現物資産も極度の社会悪化では安全ではないのである。
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現物資産が安心だという根拠はない
現物資産が安心だというのは根拠がない。現物資産は最も分かりやすい「財産」なのだから、優先的に国や盗賊に取られると考えた方がいい。大混乱が来たとき現物だから財産が助かると楽観的に思ってはならないのである。
意に反して、大恐慌、戦争、国家破綻で株式市場は吹き飛ばないし、株式の権利は最後の最後まで守られる可能性が高い。
時のすべての有力企業・権力者・為政者・金持ち・上層部・外国人が、そこに財産があるから無価値にできない。
株式市場は彼らの利権であり財産なのだから、国民を守るよりも株式市場の方を守る。自分の資産がかかっているのだから、権力者が死にものぐるいで株式市場を守り抜く。大混乱の中では、国民の生命よりもむしろ株式市場の存続が優先される。
だから、大恐慌、戦争、国家破綻で株式市場が崩壊するのを想定するのは正しくない。むしろ、株式市場の方が強いということもあり得る。
しかしながら、途上国や弱小国の株式市場は大国に蹂躙される可能性もある。株式を超長期で持つとしたら資本主義の総本山であるアメリカの株式を買うのが最も良い選択なのである。
私は別にコロナショックで「世界が終わりだ」とはまったく思っていないし、この騒動はいずれ収まるとは思っている。ただ、新型コロナウイルスの特効薬ができるまでは問題は長引き、実体経済も株式市場も凄まじく傷つくだろう。
アメリカの株式を保有したら暴落に巻き込まれないというわけではない。巻き込まれるものは巻き込まれる。
ただ、全世界が破滅的になったら、最後まで生き残るのはアメリカの資本主義だし、最初に回復するのもアメリカの株式市場だというのを言いたい。
