
パニックは終わったのか、まだなのか。底打ちしたのか、まだなのか。新型コロナウイルスの問題は早期に収束するのか引きずるのか。資本主義は破壊されるのか、持ちこたえるのか。私たちはこうしたことについて「意見」を持つことができる。しかし、こうした「意見」はあくまでも現時点のものであり、現実は刻一刻と変化しているのだから、状況が変われば意見も変わってしまうのは致し方ない。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019メディア『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)
前日比から7%下落、サーキットブレーカーが発動
久しぶりに株式市場が大暴落しているのだが、S&P総合500種が前日比から7%下落してサーキットブレーカーが発動し、取引が15分間停止するほどの大混乱に陥るほどパニックが起きると想定できていた人はほとんどいなかったはずだ。
そして、分からないと言えば、これから株式市場は持ち直すのか、それともどんどん下落していくのかも分からない。
パニックはこれで収まったので、あとはFRB(連邦準備理事会)があの手この手で市場をなだめて、今の水準を維持しながらじわじわと上げていくと考えることもできる。
逆に、FRBが何をしようとも新型コロナウイルスは「ワクチンが開発されない限り解決しない」ので、感染拡大が実体経済をどんどん悪化させて株式市場も底なしの下落に落ちていくと考えることもできる。
パニックは終わったのか、まだなのか。底打ちしたのか、まだなのか。新型コロナウイルスの問題は早期に収束するのか引きずるのか。資本主義は破壊されるのか、持ちこたえるのか。
私たちはこうしたことについて「意見」を持つことができる。しかし、こうした「意見」はあくまでも現時点のものであり、現実は刻一刻と変化しているのだから、状況が変われば意見も変わってしまうのは致し方ない。
1月に新型コロナウイルスが中国の武漢を混乱させていた時、「あんなものは風邪みたいなもので手洗いとうがいをしたら防止できる」とか、「大騒ぎする必要はない」とか、問題を軽視する意見の方が強かった。
1月の時点では、「アメリカの株式市場に与える影響は軽微」「アメリカ経済は強いので株価はもっと上がっていく」と結論づけられていたのだ。
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「大統領選挙の年は72%の確率で株価は上昇で終わる」
折しも2020年はアメリカで大統領選挙がある。統計を見ると、大統領選挙のある年は72%の確率で株式市場は上昇で終わっている。こうした現象はアノマリーと呼ばれるのだが、経験則として共有されている現象である。
「大統領選挙の年は72%の確率で株価は上昇で終わる」というアノマリーは今回も意識された。FRB(連邦準備理事会)の采配は完璧で、2019年は株式市場は上昇し続けてきた。
そうであれば、トレンド的には「2020年の株式市場は安定的に上昇する」という予測が多くの投資家の意識にあったというのは間違いない。だから、市場はある意味「慢心していた」と言っても過言ではない。
いくら「バフェット指数」「シラーPEレシオ」「米国ISM製造業購買担当者景気指数」などの指標が「高値圏」であることを示唆していても、「アメリカの景気やGAFAの強さを考えると高値とは言えない」という意見もあったのだ。
2020年に入って早々、アメリカはイランのソレイマニ司令官を爆殺したこともあって、一触即発の状況から株が売られる局面もあったが、この事件はそれほどパニックにはならなかった。
アメリカもイランも本気で戦争する気がないことを市場は見透かしていて、それよりも「アメリカの景気は強いので株式は買いだ」という勢いの方が強かったのだ。
このまま推移すると、「大統領選挙の年は72%の確率で株価は上昇で終わる」というアノマリーは今年もクリアしたかもしれない。
しかし、中国で突如と発生して瞬く間に武漢を地獄に陥れてしまった新型コロナウイルスは、こうした投資家の目論見をすべて破壊してしまった。
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すでにパンデミックが引き起こされている状態
新型コロナウイルスは「インフルエンザよりも軽い」「若い人はかかっても風邪程度」だと言われていたのだが、実際には相当に重症化するケースもかなりあり、特に基礎疾患を持っている高齢者の死亡率は40%を超えると見る専門家もいる。
「インフルエンザよりも軽い」とは言えないものだと分かってきた。
中国の国家衛生健康委員会によると、運悪く重症化していくと「肺に異常が起きる」「脾臓などのリンパ系器官に異常が起きる」「心臓に異常が起きる」「肝臓に異常が起きる」「腎臓に異常が起きる」「脳組織に異常が起きる」等の症状が次々と発生してサイトカインストームを引き起こす。
そのため、新型コロナウイルスの封じ込めは各国政府の最重要項目となったのだが、グローバル化の時代に人の流れを完璧に抑えるのは非常に難しい。結局、いくつかの国で新型コロナウイルスの封じ込めに失敗して感染者を大量に増やしてしまった。
当初は中国に近い日本や韓国や東南アジアの感染が注目されていた。
しかし、それがやがてイタリアに広がっていき、イランに広がっていき、EU諸国全体に広がっていき、いよいよアメリカでも市中感染が起きるようになって、パニックが引き起こされる状況へとなっていった。
本来であればWHO(世界保健機関)は、しっかりと警告を発して中国人の渡航制限をすべきだった。
ところが、中国に買収されているのではないかと噂されているテドロス事務局長は「大袈裟に騒ぐな」と言って頑なにそれをしなかった。そして今頃になって、全世界に新型コロナウイルスが蔓延したのを見て「パンデミックが現実味になった」と言い出し始めている。
そんな状況なので、もはや実質的に全世界に新型コロナウイルスは拡散しており、パンデミックが引き起こされている状態であると言える。
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新型コロナウイルスの対応は「誰がやっても失敗する」
新型コロナウイルスを封じ込めるためには、ワクチンの開発が必須条件だ。特効薬ができた瞬間に新型コロナウイルスの問題は劇的に解決する。しかし、今のところワクチンがいつ開発されるのかは分からない。
そうであれば、都市を封鎖し、人々が出歩かないように自宅に待機させ、感染者は隔離するしかない。ところが、それを徹底すればするほど実体経済がストップして経済は瀕死状態になる。
実体経済の極度の悪化を避けるためには、封じ込めを緩いものにしなければならないのである。国民の健康を取るか。それとも経済を取るか。各国政府はその決断を迫られる。そして、どちらを選んだとしても、国は大きなダメージを受ける。
つまり、新型コロナウイルスの対応は「誰がやっても失敗する」性質のものである。封鎖を厳しくしても緩和しても必ず問題が発生する。そのため、時の政権はどのような対応をしても国民に「何とかしろ」と突き上げられることになる。
トランプ政権が新型コロナウイルスの対応に失敗したら、トランプ大統領の再選はかなり危ういものになる。新型コロナウイルスの対処の失敗、そして新型コロナウイルスで発生した株価大暴落の責任を取らされる形で選挙に敗退する。
そうなるとは限らないのだが、新型コロナウイルスの問題が長引けば長引くほど、トランプ政権とアメリカの株式市場には暗雲が漂うことになる。
この新型コロナウイルスの問題がいつ収まるのか、どの程度の被害で終わるのかは、今のところはまったく分からない。もっと醜悪なことになるとも言えるし、治療法や特効薬が早期に開発されて問題は早期に収束するとも言える。
状況はどちらにも転ぶ。そのため、短期的にどちらに転ぶのかを予測するのは「賭け」である。
