ベーシックインカムは実現などできないし継続できないシステムではないのか?

ベーシックインカムは実現などできないし継続できないシステムではないのか?

現代の弱肉強食の資本主義は確かに凄まじい貧困と経済格差を生み出した。ベーシックインカムはこうした「行き過ぎた資本主義」に対するひとつの提案として生まれた所得再分配のアイデアである。しかし、政府がすべての国民に対して「毎月一定額を無条件に配る」という政策は実現可能なのか? そしてそれは継続できるシステムなのか?(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019メディア『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

ベーシックインカムという思想そのものに欠陥がある?

最近、多くの人が「ベーシックインカム」を口にするようになっている。ベーシックインカムとは、政府がすべての国民に対して「毎月一定額を無条件に配る」という政策を指す。たとえば、毎月8万円なり10万円なりが誰の口座にも振り込まれるということだ。

最低限の生活資金が振り込まれたら、国民は知的で有意義な生活ができるはずだという思想がこのベーシックインカムの中に込められている。

多くの仕事を掛け持ちするワーキングプア層や、低賃金を余儀なくされている非正規雇用者や、ブラック企業で死ぬまで働かされている労働者にとって、ベーシックインカムはとても魅力的な政策に見える。

日本でもベーシックインカムを説く識者もたくさんいるし、それを望んでいる人も大勢いる。

しかし、私自身はベーシックインカムには反対だし、そもそもこんな政策が日本に取り入れられると思ったことは一度もない。現実的ではないし、このベーシックインカムという思想そのものに欠陥があるように見える。

そもそも、財源はどうするつもりなのか。

1億2000万人に10万円を配るとなると、財源は毎年120兆円必要となる。毎年120兆円をばらまく余裕は日本にあるのだろうか。毎月8万円だとしても96兆円である。

もし仮にベーシックインカムを実現するというのであれば、この96兆円〜120兆円を税金で徴収する必要があるのだが、ベーシックインカムを実現するためには、まず国民から税金をふんだくる必要がある。

つまり、ベーシックインカムの正体は「国民から最初に取って、それを均等にばらまく」というものである。早い話がベーシックインカムは共産主義思想を別の言い方に変えたものであると言える。

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文字通り「働いたら負け」の社会を生み出す

フィンランドとカナダは実験的にベーシックインカムを取り入れたのだが、早期で継続を断念している。もちろん財源の問題だ。

政府にとって負担のない額のベーシックインカムは国民にとっては不十分な額であり、国民にとって十分な額は政府にとっては負担になる。国民にとって十分な額を配るのであれば、結果として国民からもっと税金を取らなければならない。

ないカネは配れない。政府は稼ぐのではなく徴収する機関だ。だから、ベーシックインカムは最終的には「働いている人から取って、働いていない人に配る」ものになっていく。

それでも「働かなくても食べていけるのであればベーシックインカムの方がアンダークラス(貧困層)は得するのではないか」と考える人もいる。

しかし、あらゆる社会保障をベーシックインカムで一本化するというのであれば、生活保護費も年金もすべて一律8万円、あるいは10万円になるわけで、むしろベーシックインカムにしたことで食べていけない高齢層や貧困層が続出することになる。

超高齢化社会に突入した日本でベーシックインカムを実施すると、最も人口が多い高齢層と最底辺のアンダークラスが揃って食べていけなくなる。

もし、こうした本当の貧困者や困窮者は別枠で助けるというのであれば、人々はこのように考えることになる。

「ベーシックインカムをもらい、さらに働かないで困窮すると生活保護費も別にもらえる。そうであれば働いたら負けだ」

それはずるい考え方ではない。働かなければ働かないほど生活保障を厚くしてくれるというのであれば、文字通り「働いたら負け」なのである。

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常に「財源をどうするか」という問題が付いて回る

現代の弱肉強食の資本主義は確かに凄まじい貧困と経済格差を生み出した。ベーシックインカムはこうした「行き過ぎた資本主義」に対するひとつの提案として生まれた所得再分配のアイデアである。

所得再配分なのだから、消費税みたいなものではなく累進課税で金持ちから取ればいいという人もいる。

「累進課税などで金持ちからがっぽりと税金を取って、それを原資としてベーシックインカムを実現したらいい」という発想だ。

しかし、フォーブスの世界最強クラスの金持ちであるウォーレン・バフェットやビル・ゲイツやジェフ・ベゾスの資産が10兆円規模であるのを見ても分かる通り、金持ちからがっぽりと税金を毟り取っても、とても100兆円には満たない。

仮に何とか最初の年に100兆円を金持ちから毟り取ったとしても、2年目になると誰もカネを持っていない事態となる。つまり、いくら累進課税で金持ちからカネを毟り取っても、それをベーシックインカムの原資にするというのはできない。

そもそも、金持ちに全資産を毟り取るような重税を敷いた瞬間、金持ちは国を捨てて出て行くだろう。後に残されるのは金持ちも事業家もいなくなったアンダークラスだけの国になる。

ベーシックインカムは、常に「財源をどうするか」という問題が付いて回り、そこから逃れられない。

かなり精密かつ徹底的な税制改革でベーシックインカムを実現したとしても、そもそもそれで国は成長し、豊かになり、未来は明るいのだろうか。ベーシックインカムを実現したら、国富が増えるのだろうか。国民は勤勉で、意欲溢れるようになっていくのだろうか。私は、そうは思わない。

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ベーシックインカムなどは机上の卓論でしかない

「働こうが働くまいが一定額をもらえる」というのであれば、「働かない」ことを選択する人間が出てくるのは必然でもある。

生活するにはまったく足りない額であればベーシックインカムの意味がないので、ベーシックインカムは必要最小限の生活ができる額になる。たとえば10万円だ。しかし10万円は必要最小限だ。

日本人の大多数は都会で暮らしているが、大都市圏で10万円で暮らすというのは大変なことだ。本来であれば働かなければならない。

しかし、10万円が入るのなら、むしろ極限まで節約して10万円で一生働かないで暮らそうと思う人も続出するはずだ。働くのは面倒くさい。何もしないで寝てた方が楽だ。そうであれば働かない選択をする人が増えても当然なのである。

働かない人が増えれば国家の歳入はそれだけ減る。すると政府はベーシックインカムを維持するためにますます税金を引き上げなければならなくなる。

結果的には税金ですべて奪われて、働けば働くほど税金が過大にかかって損する社会が生まれることになる。

わざわざ労働をして損をするなら、余分に働こうなどと思う奇特な人はいない。働いて酷税を取られて「働いていない奴ら」に配られるのなら、馬鹿馬鹿しくて働いてられないと思うのが人の心だ。

これは、働いている人間も働いていない人間も、頑張っている人間も怠けている人間も、みんな一律の給料にした共産主義国家と同じ運命を辿る。

共産主義の国家に生きていた国民はみんな働かなくなって、共産主義国家は非効率さゆえに崩壊していった。

ベーシックインカムというのは、そのような社会を生み出すのではないか。最低限の生活資金が振り込まれたら誰も働かなくなるというのが実情ではないのか。ベーシックインカムは継続できないシステムではないのか。

私自身は、ベーシックインカムなどは机上の卓論でしかないと思っている。こんなものを取り入れたら国が滅びる。

『みんなにお金を配ったらー―ベーシックインカムは世界でどう議論されているか?(アニー・ローリー)』

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