「同一労働・同一賃金」によって、むしろ追い詰められる人が増える理由とは?

「同一労働・同一賃金」によって、むしろ追い詰められる人が増える理由とは?

同じ仕事であれば同じ賃金であるべきというのはフェアな考え方である。しかし、日本が今までそうではなかった。その理由は、日本独自の「年功序列」というシステムがあったからだ。年功序列というのは、若いうちは少ない賃金で年齢が高くなればなるほど賃金が上がっていくというものである。これは終身雇用とセットで取り入れられたものだ。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019メディア『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

「同一労働・同一賃金」が2020年4月1日から実施

2020年に明確に何が変わるのか。それは「賃金」である。日本でもいよいよ世界の労働条件と同じく、「同一労働・同一賃金」が2020年4月1日から全国で一斉に実施されることになっている。

「同一労働・同一賃金」とは、簡単に言うと「同じ仕事をしている人は、年齢や雇用形態に関わらず同じ賃金であるべきだ」というものである。

現在、正社員や高年齢の人の賃金が高く、非正規雇用者の賃金が極端に安くて、同じ仕事をしていても賃金の格差が歴然として存在する。それを是正するのが「同一労働・同一賃金」だ。

これは安倍首相が提唱する「一億総活躍社会」の具体的方策の一環として検討されていたものだった。2016年あたりに提唱され、厚生労働省が3年近くの時間をかけて準備してきた。

経済界も、おおむね「同一労働・同一賃金」を歓迎した。同じ仕事をしていても一方は高賃金で、一方は低賃金であるというのは、かねてから現場に不公平感を生み出しており、状況の改善が急がれていた。

これは「現場での格差を少しでもなくしたい」という善意から来る動きであった。労働者を苦しめている問題を改善しようとする正義から生まれてきた動きだ。

しかし、世の中はしばしば善意や正義が逆に作用することがある。もしかしたら、「同一労働・同一賃金」は多くの日本人を苦しめる施策になる可能性もある。

どういうことなのか?

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正社員の賃金が、非正規雇用者の低い賃金に固定化

同じ仕事であれば同じ賃金であるべきというのはフェアな考え方である。しかし、日本が今までそうではなかった。その理由は、日本独自の「年功序列」というシステムがあったからだ。

年功序列というのは、若いうちは少ない賃金で年齢が高くなればなるほど賃金が上がっていくというものである。これは終身雇用とセットで取り入れられたものだ。

会社は「終身雇用で面倒を見るから、若いうちは賃金はあえて低く抑える。会社に貢献し続けてくれることによって賃金は必ず上げていく」というシステムで雇用者を囲い込んでいたのである。

しかし、終身雇用が崩壊した。2019年5月にはトヨタ自動車の豊田章男社長が「このままでは終身雇用の維持は難しい」と述べたことで大騒ぎになったことがあったが、グローバル経済の苛烈な競争の中で実際に終身雇用が維持できなくなりつつある。

そのため、年功序列を前提とした賃金格差が問題になってきた。終身雇用が崩壊して年功序列も意味がなくなったのであれば、「同一労働・同一賃金」になるのは必然であると言える。

これによって、同一労働間の格差が消えて働く人はみんな同一賃金でフェアな社会になるというわけだ。

しかし、考えなければならないことがある。

「同一労働・同一賃金」で、企業は賃金を高い方で統一するだろうか。それとも低い方で統一するだろうか。場合によっては正社員の賃金が非正規雇用者の低い賃金に固定化される可能性はないのだろうか……。

経済界は賃金の引き下げができる方向であれば、どんな施策であっても歓迎する。今回の「同一労働・同一賃金」で企業が賛同を表明しているという意味は、それによって賃金を引き下げることができるという計算があったからだ。

言うまでもなく、単純労働に類する仕事は必ず低い賃金の方で同一賃金に統一される。なぜなら、全世界が実際にそうなっているからである。

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最低賃金にまで確実に給料が下げられていく社会へ

さらに考えなければならないのは、なし崩しのグローバル化である。社会がグローバル化して企業も多国籍化しているのだから、「同一労働・同一賃金」であれば必然的にグローバルに賃金が統一化されていく流れになっていく。

それは「誰でもできる簡単な仕事」「単純作業」「ルーチンワーク」が、途上国の賃金に合わせられるということを意味しているのである。

安い賃金でもそれをやるという人が現れたら、当然のことだが企業は安い賃金を基準にして「同一労働・同一賃金」を設定して全員の賃金をそれにするのは間違いない。

途上国の人間が安い賃金でやっていて、仕事がそこにアウトソーシングできるのであれば、当然のことながら日本でもその仕事はその賃金になっていく。

日本の物価がどうであろうと関係ない。極端な話だが、タイ人が日本人と同じ仕事ができて、彼らの月給が月3万円であれば、企業は彼らの賃金で「同一労働・同一賃金」を実現しても不思議ではない。

日本人がどうしても、その仕事で働きたいのであれば、日本人の賃金も月給3万円に引き下げられる。中国人が月給1万円で同じ仕事をするのであれば、日本人の月給もまた1万円に引き下げられる。

もちろん、日本にも最低賃金というものが厚生労働省によって決められている。そのため月給が3万円というのはないと考えられる。

だとすれば逆に、最低賃金にまで確実に給料が下げられて賃金が一生上がらないという現象が起きてもおかしくないということでもある。

今までは非正規雇用者だけが、この悲哀を味わっていたのだが、「同一労働・同一賃金」によって正社員も非正規雇用者と同じになっていくのである。

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低賃金で働く途上国の人の賃金にフラット化する

果たして、企業はそんなことを考えるだろうか。そう思う人は、ユニクロ社長の柳井正氏のかつての発言を思い出すといい。

ユニクロの柳井正氏は2013年からすでに「世界同一賃金」を提唱し、仕事のできない人間は「年収100万円も仕方ない」と言っていた。柳井正氏は2013年4月23日の朝日新聞の紙面上でインタビューに答える形で次のように言っている。

「それはグローバル化の問題だ。10年前から社員にもいってきた。将来は、年収1億円か100万円に分かれて、中間層が減っていく。仕事を通じて付加価値がつけられないと、低賃金で働く途上国の人の賃金にフラット化するので、年収100万円のほうになっていくのは仕方がない」

高度化する職種や仕事に対応できず、付加価値が付けられない仕事、つまり「誰でもできる仕事」をしている人間は、途上国の賃金に合わせられて年収100万円になっていくと経営者が自分の口で堂々と語っているのである。

「同一労働・同一賃金」とグローバル化が結びつくと、何が起きるのかというのは、こうした企業の動きを見ていればすぐに分かるはずだ。

賃金の低い方向で固定化されていき、能力が向上できなければ一生うだつが上がらないというものになっていくのだ。

もちろん、現代社会に求められている高度な能力が要求される仕事においては賃金が大幅にアップする人も出てくるので、誰もが賃金低下で固定化されるわけではない。恩恵を得る人は必ずいる。

しかし、「同一労働・同一賃金」によってむしろ追い詰められる人も増えるという暗部も知っておくべきだ。

「仕事を通じて付加価値がつけられないと、低賃金で働く途上国の人の賃金にフラット化するので、年収100万円のほうになっていくのは仕方がない」という言葉が「同一労働・同一賃金」の未来になるかもしれない。

2020年4月1日から、それは実施される。

『同一労働同一賃金で、給料の上がる人・下がる人(山口 俊一)』

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