ヤフーやアリババを発掘した孫正義は、ウーバーやウィーワークで失敗するのか?

ヤフーやアリババを発掘した孫正義は、ウーバーやウィーワークで失敗するのか?

スティーブ・ジョブズのように人類の歴史を変えるような起業家もいるのだが、その途中で莫大な負債を抱えて吹き飛んでいった起業家も多い。「ビジョンに投資する」というのは、凄まじく難しいことなのである。ビジネスモデルが斬新であれば、尚のこと評価ができない。評価ができないので、投資はギャンブルにならざるを得ない。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

「セラノス」のエリザベス・ホームズ

アップルの創業者であるスティーブ・ジョブズは、ビジョンを熱く語って自分の目指す未来を大きな形に仕立て上げていく経営スタイルだった。ジョブズはコンピュータの「あるべき姿」を見つめていて妥協がなかった。

そのジョブズの築き上げたビジョンが、パーソナルコンピュータの時代を生み、そしてスマートフォンの時代を生んだ。今の文明に生きる私たちは、全員がスティーブ・ジョブズのビジョンの中で生きていると言っても過言ではない。

このスティーブ・ジョブズは2011年10月5日に亡くなった。そして、アメリカには劣化版のスティーブ・ジョブズが次々と誕生するようになって、その劣化ぶりが社会を翻弄するようにもなっている。

たとえば、2003年に設立され、一時は時価総額1兆円になったバイオベンチャー「セラノス」のエリザベス・ホームズも、スティーブ・ジョブズの外側だけを真似た女性起業家だった。

彼女の創業したセラノスは「少量の血液で200種類以上の血液検査を迅速かつ安価にできる」という触れ込みで大々的に資金を集めた。しかし、装置は完成しておらず、完成の見込みもなく、年商も110億円レベルで、とても時価総額1兆円の企業の売上には見えないものだった。

ジョブズなみに傲慢で自己顕示欲の塊のような女性エリザベス・ホームズは、結局はジョブズを真似た詐欺師であり、詐欺罪で訴えられるという結末になった。

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コワーキングスペースのウィーワーク

そして、「ウィーワーク(WeWork)」のアダム・ニューマンもそうだった。

ウィーワークは「コワーキングスペース」を運営する企業だということなのだが、コワーキングスペースのビジネスモデルとは、簡単に言うと「シェアハウスのビジネス版」である。

つまり、ウィーワークがどこかに不動産を借りて、そこに洒落た共用スペースを用意して後は小分けした空間を個人事業主や起業家に貸すのである。そして、ウィーワークが個人事業主や起業家から毎月の家賃を徴収する。

ある意味、ロケーションを吟味して手堅くやればきちんと収益が上がる「不動産ビジネス」であると言える。これを凄まじいスピードと凄まじい規模でやってのけたのがウィーワークで、2018年8月時点で、世界23国の77都市287拠点にコワーキングスペースを作ったのだった。

創業者であるアダム・ニューマンは、やはりスティーブ・ジョブズと同じで夢を大きく語って他人の反論を許さない「カリスマ型」であり、ビジネスは負債に次ぐ負債で成り上がっていった。

社員にも出資者にも熱狂的かつ情熱的に夢を語り、会社を私物化し、投資家をどんどん呼び込んで会社の規模を大きくしながら、一方で凄まじい乱脈経営を繰り広げて資本を蕩尽していた。

このアダム・ニューマンの情熱に、フィデリティも、ゴールドマン・サックス、JPモルガンも投資している。慎重でかつ先見の明があるJPモルガンのジェイミー・ダイモンCEOでさえも、アダム・ニューマンに惚れ込む始末だった。

そして、そこに莫大な資金を持って乗り込んで来たのが、「ビジョンファンド」をひっさげたソフトバンクの孫正義だった。孫正義は最初からビジョンファンドに投資するつもりでいたので、アダム・ニューマンと会って、あっと言う間に約4300億円を投資した。

しかし、ウィーワークはただの「不動産事業」であり、事業が伸び続けるかどうか分からない中で巨額の損失を計上し続け、さらにアダム・ニューマンの個人利益追求や、その妻の奇行もあってIPOに失敗し、巨額の投資をした孫正義が一気に追い込まれる事態へと急展開することになった。

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ウィーワークを絶対に潰せない孫正義

ウィーワークは巨額の赤字を積み上げ、IPOにも失敗し、アダム・ニューマンは放逐された。急成長したウィーワークは、成長したのと同じスピードで崩壊に向かって突き進んでいる。

今はまだアメリカの景気も悪くないので、コワーキングスペースのビジネスは何とか回っている。

しかし、もし不況がやってくると個人事業主や起業家は一斉にコワーキングスペースから引き上げるのは目に見えている。それは、弱り切ったウィーワークを一瞬にして破綻に追いやることになる。

ウィーワークの累積赤字は約4300億円から6500億円あたりではないかと見積もられている。累積赤字がはっきりしないのは、ウィーワークの財務諸表がわざと分かりにくい評価方式を使って投資家を欺くものになっているからだ。

いずれにしてもIPOに失敗した疑惑の企業が、約4300億円から6500億円あたりの負債を抱えているというのは尋常ではない。

この先、奇跡的に好景気が続いたとしても、信用も失ったただの不動産仲介ビジネスをやっている企業が負債を返すのは相当な苦難である。本来であれば、こうした会社は潰れるのが自然だ。しかし、潰れない可能性は高い。

孫正義は、ウィーワークをビジョンファンドを通して莫大な資金を流し込んだ。この資金はサウジアラビアやアブダビが出資している。ビジョンファンドが失敗したら、孫正義とソフトバンクグループだけに影響があるのではなく、サウジアラビアやアブダビにも影響が及ぶ。

そのため、孫正義は絶対に何があってもウィーワークを「潰せない」という状況に追い込まれている。

孫正義は保有株式の38%を19金融機関に担保して資金を集めているわけで、これを見ても孫正義がビジョンファンドやソフトバンクの崩壊を避けるために、何が何でもウィーワークを「持たせよう」と思っているのが分かる。

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今のところギャンブルは裏目に出ている

孫正義自身も、スティーブ・ジョブズと同じく自分のビジョンを大言壮語して出資者の共鳴を得ながらビジネスを拡大していくスタイルである。

だからこそ、孫正義が同じスタイルでやっていたアダム・ニューマンに出資したくなる理由も分かる。

しかし、このスタイルは往々にして、大言壮語する「だけ」の人間や、自己顕示欲の強いだけの起業家や、最初から投資家を騙す気でいる詐欺師などが紛れ込む。

さらにこうした企業への投資は、創業者の「カリスマ」がひとつのプレミアになっているので、正常な企業評価ができない状況になっていることが多い。

つまり、こうした企業は今後もIPOの分野で雨後の筍の如く出てくるのだが、そこに資金を賭けるのは常にギャンブルなのである。当たれば大きいのだが、当たらないことも多く、その場合は莫大な損失を計上することになる。

中には、スティーブ・ジョブズのように人類の歴史を変えるような起業家もいるのだが、その途中で莫大な負債を抱えて吹き飛んでいった起業家も多い。「ビジョンに投資する」というのは、凄まじく難しいことなのである。

ビジネスモデルが斬新であれば、尚のこと評価ができない。評価ができないので、投資はギャンブルにならざるを得ない。

たとえば、配車サービス大手のウーバー・テクノロジーズもビジョンファンドの大きな投資先なのだが、このビジネスモデルがきちんと定着していくのかは評価が分かれている。

孫正義はヤフーやアリババを「発掘した」わけであり、成功事例もあったのだ。だからこそ、孫正義は「巨大な成長力を持つ企業を早期に発掘し、投資し、新規上場させて莫大な利益を得る」というビジネスに突き進む決意をした。

しかし、状況は香しくない。今のところギャンブルは裏目に出ている。

ビジョンファンドが投資したウーバーもウィーワークも悪評まみれになっているのだが、孫正義がここから何とか巻き返しができるのか、それとも壮絶な崩壊劇になっていくのかは今は誰も分からない。

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