「プロよりも市場平均の方が強い」と主張し続けた異端者ジョン・ボーグル

「プロよりも市場平均の方が強い」と主張し続けた異端者ジョン・ボーグル

2019年1月16日。アメリカの金融市場に大きな足跡を残した資産運用会社の創始者が89歳で亡くなっている。

ジョン・ボーグル氏だ。

ジョン・ボーグルはバンガード・グループを1974年に創設したのだが、ここで「インデックス・ファンド」を売り出して、世界最大級のインデックス・ファンド企業に育て上げた人物である。

インデックス・ファンドとは、文字通りインデックス(株式指数)に連動するファンドなのだが、日本の投資家もバンガードのETF(上場投資信託)を保有している人は多いはずだ。

ジョン・ボーグルは、一貫して「パッシブ運用はアクティブ運用に勝る」と主張してきた人物である。つまり、株式市場の値動きを見て激しく売買するよりも、市場の平均をじっと保有した方が最後には勝つということを主張してきた。

このアイデアはジョン・ボーグルが1976年に世界で初めてインデックス・ファンドを世に送り出してからずっと嘲笑されてきたが、今では金融関係者の多くが「ジョン・ボーグルは正しかったのではないか」と認識するようになっている。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。

ジョン・ボーグルの主張は何か

ジョン・ボーグルは何冊か書籍を出しているのだが、そのいくつかは私たちも読むことができる。電子書籍で手に入るものもある。

『インデックス投資は勝者のゲームー株式市場から利益を得る常識的方法』はそんな書籍のひとつだ。原題は”The Little book of Common Sense Investing”(常識的な投資に関する小さな本)である。アマゾン:インデックス投資は勝者のゲームー株式市場から利益を得る常識的方法

ジョン・ボーグルの主張は何か。それはこのようなものである。たった一言で説明できる。ジョン・ボーグルは、一生を賭けてこの主張をしていたのだ。

「株式投資で成功する戦略とは、アメリカの上場企業のすべてを極めて低いコストで永遠に保有すること」

なぜ、この考え方が今もなお投資家が受け入れられないのかは理由がある。

アメリカの上場企業のすべてを保有するというのは言ってみれば「指数を保有するということ」だが、指数は良い企業も悪い企業もすべてひっくるめた平均に他ならない。プロが「うまくやれば平均に勝てるはず」だから、わざわざ平均に満足するのはプロではないと考えられたのだ。

プロが叡智を絞って選びぬいた個別銘柄、あるいは状況を巧みに判断して行った取引は平均を凌駕するはずだ……。

それが金融のプロのみならず、金融の素人も漠然と考えていたことだった。「プロ」というのは結果を出すために存在している。そんなプロが結果を出せないというのであれば、それはプロとは言い難い。

ところが、現実はそうではなかった。プロは「結果を出せなかった」のである。

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敗者のゲームとは何か?

この世は「資本主義」だ。マネーを掌握した者がすべてを掌握する。そのため、優秀な知能を持った人間も、金融の世界を隅から隅まで知り尽くした人間も、機を見るに敏な度胸を持った人間も、みんな金融市場に乗り出して全力を尽くしている。

この彼らの成績を評価するのに使われるのが「NYダウ平均株価指数」や「S&P500指数」と呼ばれる指数なのだが、中でも最も使われる指数は「S&P500指数」である。

「S&P500指数」とは、アメリカの株式市場に上場している銘柄から代表的な500銘柄の株価を基に算出される、時価総額加重平均型株価指数で、この500銘柄でアメリカの株式全体の85%を占めている。

「ニューヨークの株価が上がった、下がった」というのは、だいたいのところ「S&P500指数」が上がったか下がったを指して言っている。そのため、プロがその年に良い成績を出したかどうかというのは、「S&P500指数」よりも勝ったか負けたかを見ているのだ。

プロというからには、「S&P500指数」に勝たなければならない。そして、1回だけ勝つだけでは駄目で、毎年毎年勝ち続けなければプロを名乗る資格はないと考える。ところが、実態を見るとそうなっていない。

なぜ、プロは「結果」を出せないのか。

ジョン・ボーグルが記した『インデックス投資は勝者のゲーム』では、その理由を株式市場は「敗者のゲームになったからだ」と書いている。

敗者のゲーム……。

実は、株式指数への投資(インデックス投資)の真髄は「株式市場は敗者のゲームである」という考え方を理解しなければならない。

この敗者のゲームの詳細は、ロックフェラー財団の資産管理を注意深く行っているチャールズ・エリスの名著『敗者のゲーム』に詳しい。(アマゾン:敗者のゲーム – Winning the Loser’s Game

株式投資の売買はすでにプロの投資家が巨大な資金を動かして行うゲームになっている。このゲームではプロとプロがぶつかり合う。すべてのプロは効率的で知的で優秀である。

そのため、プロ同士の戦いは相手のミスを出し抜くゲームになる。つまり勝つプレイをするのではなく、負けないプレイをすることになる。

それが「敗者のゲーム」である。

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異端を貫き通したジョン・ボーグル

プロが株式市場の平均に勝ち続けることができないのは、株式市場はすでにプロ同士の取引の結果として示された数値となっており、この数値にトータルで勝つには一遍のミスも許されない状況になっているからだとジョン・ボーグルは説く。

そして、チャールズ・エリスも『敗者のゲーム』でそうしたジョン・ボーグルの主張を裏付けしている。

チャールズ・エリスだけではない。ランダムウォーク理論を提唱したバートン・マルキールも、株式市場の長期研究で有名なジェレミー・シーゲルもジョン・ボーグルの主張の正当性を裏付ける論文や著書を多く出している。

株式市場はプロがしのぎを削る凄絶な駆け引きの場となっており、それが株式市場の平均株価になっている。それぞれのプロがあまりにも優秀なためにプロが相手を出し抜き続けるというのはかなり難しくなっている。

それはすなわち、株式市場の平均に勝ち続けるのは難しくなっていることを意味している。

だから、ジョン・ボーグルはこのように主張したのだ。

「株式投資で成功する戦略とは、アメリカの上場企業のすべてを極めて低いコストで永遠に保有すること」

「株式市場を長期にわたって保有することは勝者のゲームになるが、市場に勝とうとすることは敗者のゲームである」

『インデックス投資は勝者のゲーム』には、様々な戦略に応じて分類したアクティブ投信を適切な市場指数と比較した包括的なデータを見ると、「驚くべきものだった」と書かれている。

「平均すると、過去15年で90%ものアクティブ運用の投信が、市場平均に負けているのだ。インデックスは一貫して圧倒的な優位性を持っていた」

あらゆるプロのトレーダーやファンドよりも、「ただの平均にすぎない」と言われているインデックスに長期投資した方が有利だというのは今でも金融市場では異端的な考え方である。

しかし、異端だからと言って誤っているというわけではない。むしろ、正しいが金融のビジネスには邪魔なので異端扱いされている側面もある。

この異端を貫き通して、ついにインデックス投資を巨大な勢力にしたジョン・ボーグルは異質の人間だったと言っても過言ではない。2019年1月16日、ジョン・ボーグルは89歳で亡くなったが、その功績は永遠に金融市場に残る。(written by 鈴木傾城)

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ジョン・ボーグル。バンガード・グループを1974年に創設したのだが、ここで「インデックス・ファンド」を売り出して、世界最大級のインデックス・ファンド企業に育て上げた人物である。

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