労働の価値が下がり、ますます働く者が報われない社会になっていく理由

労働の価値が下がり、ますます働く者が報われない社会になっていく理由

「何の仕事でもいいから真面目に働いたら暮らせる」「一流企業に勤めたら定年まで安泰だ」「日本企業は定年までしっかりと面倒を見てくれる」

それは「当たり前」だと、ほんの少し前まで私たちは思っていた。

しかし、2000年以後には非正規雇用が増え始めて「ワーキング・プア」という言葉が一般化したことからも分かるように、働いても働いても食べて行けない人たちが日本でも大量に出現するようになった。

企業はコスト削減のために社員をどんどん切り捨て、代わりに非正規雇用者を増やし、彼らには必要最小限の賃金しか与えないようになったからだ。

バブル崩壊以後、日本社会では「労働を巡る劇的な環境変化」が起きていた。企業は意図的に終身雇用から脱却し、労働者の使い捨てに転換していたのである。それは、政府主導の動きでもあった。(ダークネス:1971年〜1974年生まれは、自分たちは過酷な時代に生きる世代だと認識せよ

さらに政府は外国人労働者を大量に日本に迎え入れており、企業は安価な労働力として外国人労働者を受け入れるようになっている。もちろん、こうした外国人労働者もまた「使い捨て」だ。

労働の価値は、意図的に下げられている。それを認識するのは重要だ。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。

いかに「利益」を出すかが唯一無二の指標となっている

意図的に労働者の賃金を下げる。労働者を使い捨てできる環境にする。これによって得するのは企業である。人件費が最も「コスト」なのだから、ここを下げれば利益が上がる。単純な経済的論理だ。

そうやってコスト削減して手に入れた利益は会社に内部留保されるか、もしくは株主に配当として配られる。現在、それが徹底化されている。

内部留保や配当は会社の「利益」が元になるので、現在の経営はいかに「利益」を出すかが唯一無二の指標となっている。

これがROE経営と呼ばれるものである。

会社が株主のためにあるという考え方は、アメリカでは昔から徹底されていた。企業は株式市場から資金を調達するスタイルを基本にしていたので、株主に報いるというのは最優先事項だったのである。

企業が株主に報いているのかどうかは何で測るのか。「ROE」で測る。ROEとは、「株主資本利益率(Return On Equity)」を意味している。その会社が株主資本を使っていくら儲けたかを示す指標だ。

もっと分かりやすく言うと、「株主が投資した資金でいくら儲けが出たのか」を示す指標がROEだ。

株主は企業にカネを貸している。だから、株主は自分たちに報いる経営をしてもらう必要がある。経営者も株主に報いるために努力する。この構図で見れば、企業は誰のものか、はっきりと分かるはずだ。

企業は株主のものなのだ。

企業はそこに投資している株主のものであるから、株主をどれだけ儲けさせるのかが重要であり、それをROEという指標で測っている。

優良企業とは具体的に言えばROEが継続して高い企業を指しており、労働者に報いているから優良なのではなくて、株主に報いているから優良なのである。

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強者の声が通りやすく弱者の声がかき消される

労働者とは、ROE経営の中では単なる「コスト」でしかない。コストは常に削減される。つまり、労働者は繰り返し給料削減やリストラの対象になる。

現代の資本主義はROE経営が生み出している仕組みが見えただろうか。

この、ROE経営はグローバル化した資本主義社会の「中核」となるものである。今後も「株主重視」の経営が続く。これは、当然のことながら株主の方が従業員よりも厚く報われることを意味している。

株主は自分たちの取り分をさらに増やすために、「もっと利益を、もっとコスト削減を」と経営者に強く迫る。そのため、経営者はコストの中で最も大きな部分である「人件費」の削減を恒常的に行う。

それが労働条件の悪化を加速させていき、ワーキング・プアを大量に生み出す元凶となる。

必死で働いるのに食べていけないという状況になっても、最初は往々にして「本人のせい」にされる。なぜなら、社会は全員が一緒に貧困に落ちるのではなく、まだらに落ちていくからだ。

若者、高齢者、障害者、女性……。社会の弱い部分からポトリ、ポトリと貧困に落ちていく。

しかしその時点では、まだ働いて食べていける人がたくさんいるので、「本人の生き方、働き方」が悪いようにしか見えない。だから、自己責任論がずっと続く。

しかし、ワーキング・プアの波が弱者ではなかった働き盛りの男性にまで広がったとき、はじめて人々は「これは個人が悪いのではない、社会的構造だったのだ」と気付いて、愕然とするのだ。

この時点で、労働者は捨てられる運命であると気付いても遅い。もう手遅れだ。社会は往々にして、強者の声が通りやすく弱者の声がかき消される。

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まだ「格差が広がる社会」の入口にいる

日本も終身雇用・年功序列が霧散霧消して労働者は使い捨てとなった。企業はROE重視の経営を取り入れるようになり、経営は「株主のため」にされるようになっている。

それがますますコスト削減の締め付けの強化につながっていき、労働者はさらに「働いても食べていけない」という絶望のどん底に落とされる。

株主は報われる。彼らはさらに利益の分け前を要求し、経営者に株価の上昇と配当の増額を求め、それを実現させる力があるからだ。

今までの日本企業は社員を終身雇用で雇うためにコスト削減には消極的で、必然的にROEが低い経営を余儀なくされていた。コストが増大であると分かっていても社員を守っていたのだ。

しかし日本企業がグローバル化に揉まれていく中で、外国人の株主、外国人の経営者、外国企業との提携が当たり前になっていき、ROE重視の経営に変化している。

日本企業は、ROE重視の多国籍企業になるか、ROE重視の多国籍企業に飲まれる。つまり、日本でも株主が報われて、労働者が貧困化する社会がますます先鋭的になっていく。

今、私たちは「格差が広がる社会」であると認識している。これは始まったばかりである。これからも、もっと格差は広がっていく。本番はこれからだ。まだ今は地獄の入口にいる。

企業の「利益」にアクセスできない人間、分かりやすく言えば「株主ではない人間」は、弱肉強食の資本主義からは何も得ることができない。

単なる労働者にしか過ぎない人間は、コスト削減の対象でしかなく、壮絶なまでの貧困状態に突き落とされてしまう。

私たちはこの「弱肉強食の資本主義」の正体をよく知っておかなければならない。労働の価値が下がり、ますます働く者が報われない社会になる。そして株主が大きく報われる社会になる。(written by 鈴木傾城)

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日本企業は、ROE重視の多国籍企業になるか、ROE重視の多国籍企業に飲まれる。つまり、日本でも株主が報われて、労働者が貧困化する社会がますます先鋭的になっていく。

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