投資において、頭の良い人間が常に勝つとは決まっていない理由とは?

投資において、頭の良い人間が常に勝つとは決まっていない理由とは?

頭の良い人間が常に勝つとは決まっていないのが投資の世界だ。

ヘッジファンドを運用する機関は、莫大な資金と優秀な人員と高額の分析ツールを使って市場に乗り出しているのだが、それでも絶対に勝てるのかと言えば、まったくそうではない。

それは、多くのヘッジファンドがS&P500に勝てないことでも分かるし、毎年次々とヘッジファンドが閉鎖されているのを見ても分かる。

これは何を意味するのかというと、世の中はデータで解析して答えが出るような環境にはなっておらず、常に人々の予測や希望を裏切って予期せぬことが起きているのが常態になっているということだ。

不意に予測もしなかったことが起きる。不意に起きてはならないことが起きる。「こんなことが起きたら世の中はおかしくなる」と思うことが起きる。それが世の中である。

だから、ヘッジファンドの思惑はしばしば外れていく。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。

ジョン・メリウェザーという男のヘッジファンド

1990年代後半に「世界最強だ」と言われたヘッジファンドが設立されたことがあった。そのヘッジファンドの名前は「ロングターム・キャピタル・マネージメント」、通称「LTCM」である。

設立者は、当時のウォール街の伝説的債券トレーダーだった、ジョン・メリウェザーという人物だった。

ソロモン・ブラザーズの取締役副社長の地位までのし上がり、ゆくゆくはソロモン・ブラザーズの最高経営責任者になるのではないかとも言われていた知性を持ち合わせていた人物だった。

しかし、不正入札が発覚して、メリウェザーが不正に深く関わっていたことから辞任を余儀なくされた。

その後、メリウェザーが設立したのがこの「LTCM」だった。

このヘッジファンドのすごいところは、債券トレードについての第一人者であったメリウェザーが、マイロン・ショールズとロバート・マートンという2人のノーベル経済学賞学者をヘッドハンティングしたことである。

これぞ、世界で最も有能な頭脳が結集した「知能集団」であった。そして、この知能集団が高度な金融工学を駆使してトレードに飛び込んでいったのだ。

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ウォール街の伝説的債券トレーダーだった男の自滅

それで、どうなったのか。当初は驚異的なリターンを手にしたLTCMだったが、アジア通貨危機で債券市場が混乱すると一気にリスクが拡大した。

そして、1998年のロシアの債務不履行でこのヘッジファンドは莫大な損失を抱えて吹き飛んでいった。

ノーベル賞受賞者だけでなく、数学や経済学の分野で博士号を持つよりすぐりの知性を集め、複雑な金融工学を駆使した戦略は、たった4年で寿命を終えたのである。なぜ、こんなことになったのか。

驚異の年間40%のリターンを上げるために、このヘッジファンドは債券取引に大きなレバレッジを賭けていたのだった。

レバレッジは、思惑通りに事が運べばリターンを二倍にも三倍にも膨らませる。しかし、いったん思惑が外れると損失もまた二倍にも三倍にもなっていく。

このレバレッジの管理は徹底化されていたのだが、アジア通貨危機とロシアのデフォルトという「予想外の出来事」が起きた瞬間に機能しなくなった。そして、LTCMはすべてを失っていった。

この失敗でメリウェザーは窮地に陥ったが、再起して新たなヘッジファンド「JWMパートナーズ」を立ち上げた。どうなったのか。このヘッジファンドは今度はリーマンショックに巻き込まれて2009年に閉鎖に追い込まれた。

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頭が良い人間が常に勝てるとは決まっていない理由

ジョン・メリウェザーは無能だったのではない。むしろ、債権トレーダーとしては世界有数の頭脳だった。

しかし、この世界有数の頭脳を持ってしても、市場の混乱は予測も回避もできず、十数年に一度あるかないかの異常な出来事に巻き込まれてダメージを受けた。

市場で起きるこうしたダメージのことを「ブラック・スワン」と呼ぶ。(フルインベスト:過去の統計グラフで未来を語るな。ナシーム・タレブの嘲笑

ブラック・スワンはいつ舞い降りて市場を混乱させるのか誰にも分からない。来ると思えば来ないし、来ないと思えば来る。それが、世の中なのである。

この事実が分かれば、世の中を「読む」ことで金儲けをすることと、読みの効果を膨らませるためにレバレッジを使うことの危険が身に染みるはずだ。

頭が良い人間が常に勝てるとは決まっていないのは、ここに理由がある。

「自分の読みは正しい」という自信過剰が「世の中を読んでトレードする」という手法に走らせる。さらに「自分の読みは外れるはずがない」という強度の思い込みがレバレッジの多用を生む。

そして、思惑が外れて自滅していく。

そう考えれば、市場を読まずに「安い価格で良い企業を手に入れて、その企業の成長を長期に渡って享受する」というシンプルな手法は結局は最後に生き残る素晴らしい戦略であるというのが分かるはずだ。

別に市場を読まなくても、予言者にならなくても、ブラック・スワンが降り立っても、ただホールドして、じっくりと買い増ししていけば勝てるのである。必要なのは極度の頭の良さではなかった。

必要なのは、ただ単に忍耐力だったのである。(written by 鈴木傾城)

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ジョン・メリウェザー。債権トレーダーとしては世界有数の頭脳だったが、市場が混乱するたびに管理するヘッジファンドを自滅させている。

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