東南アジア圏も、インド圏も、かつては「旅行」だけの関心だったが、今は「投資」という観点がここに加わり、注目されるようになっている。
特に最近の東南アジアに関する話題と言えば、もう「投資」の関心だけに絞られていると言っていい。
2000年初頭のITバブルが崩壊したあと、ゴールドマン・サックスはBRICSという概念を作って投資家の資本を新興国に向けさせた。
さらにリーマン・ショック以降、2009年から欧米で金融緩和がなされたため、その余剰資金がグローバル経済の流れに乗って、資金の大移動を起こしている。
金が流れるところに個人投資家や投機家が参戦する。すると、一部の欧米資本が頃合いを見て、根こそぎカネをかっさらっていく。
現在は先進国が恒常的に不調だから、リスク・マネーは新興国へとなだれこんで行くことになる。その矛先がアジアだ。
2006年からベトナム市場に起きたこと
本来、新興国への投資というのはリスキーなものだった。
だが、先進国という安定的な投資先が喪失すると、ハイリスク・ハイリターンの舞台を求めて莫大な資金が未開拓な土地に流入していくことになった。
アジアが明確にその対象になっている。
もちろん、カネに色がついているわけではないからどれがそうなのか言えないものの、そのほとんどが投機的な動きをする。歴史を振り返ると、常にそうだった。
「投機」資金は、「投資」資金とは別物だ。それは入ってくるのも唐突だが、出て行くのも唐突である。
彼らは別にアジアを「愛している」わけではないから、アジアが期待を裏切ったらすぐにでも消えて他の舞台へと移っていく。
2006年から2007年までの2年間、そういった投機資金がベトナムに流入したことがあって、誰も彼もがベトナムになびいてベトナムの株式市場を押し上げたことがあった。
ベトナムがなだれこんで来る資金で資産インフレを起こすと、あっという間に投機資金は去っていった。
ベトナム市場はリーマン・ショックで崩壊したのではない。投機が破綻してリーマン・ショックの1年前に破綻してしまっていたのである。
投資家同士がベトナムを舞台に投機をしたわけで、その性急で荒々しい資金の動きは投機資金の性質を示す良い例だったように思う。
持ち上げて、叩き落す。その典型的な例がベトナム株式市場の動きに見て取れる。
投機家はベトナムを愛していたわけではない。資金の動きから見て、それは明白だ。
誰がカモなのか分からないとき、それは自分がカモ
アメリカの投資銀行やヘッジファンドは何をしたのか。
(1)BRICSという概念を作り出した。
(2)新興国に関心を持たせた。
(3)ベトナムの将来性を煽りまくった。
(4)巨大バブルを形成させた。
そして、2007年になっていよいよ「はめ込み」が終わると、彼らは一気にそれをかっさらった。そして、ベトナム市場は見捨てられた。
この2007年、アメリカの投資関連企業は、アジア市場で空前の利益を計上していたのである。
客観的に分析すると、投資銀行の語る「ベトナムの将来性」は、収奪するマネーを増やすための単なる方便だったことが分かる。
多くの日本人もそれに騙されて、せっせとベトナムに投資していた形跡がある。
2008年にベトナム市場が崩壊したあとも、まだ「ベトナムの将来」を信じて保有していた人もいたようだが、このような人はリーマン・ショックでさらに深手を負った。
一般の投資家は素直なので、投資銀行や投資ファンドのはめ込みを素直に信じる人が多くて、毎年それにやられている。
たとえば、ドバイが金融センターになるというと、やはりそれは煽られて、はめ込みが終わったところで「仕掛け人」はがっぽりと資金を吸い上げて消えていく。
ブラジルが新興国の代表だと聞けば、またもや煽られて、はめ込みが終わったところで「仕掛け人」が一気に抜く。
取り残された投資家は、何が起こったのか分からないまま、損を抱えて呆然とする。何が起こったのか分からないのであれば、格言を思い出せばいい。
「ブリッジを始めてしばらくしても誰がカモなのか分からないとき、それは自分がカモなのである」
1997年のバーツ危機で起きていたこと
投機家(ヘッジファンド)というのは、要は儲かりそうならば対象は何でもいいわけであり、その節操のなさが投機資金全体の性格を表している。
つまり、アジアの時代だと持ち上げている投機資金は、アジアが期待に沿わないとすぐにでも、時流を読み違えた投資家を置き去りにして去っていくということだ。
これは今に始まったことではなく、ずっと昔から延々と繰り返されてきたことだった。
1997年のバーツ危機は、世界経済とアジア経済の不幸な交差だった。タイは売り叩かれ、経済発展の最中にあったこの国は、一気に瓦解した。
その時の「時代の変転」を、私はこの目で見ている。この劇的なアジア市場クラッシュが起きる前の雰囲気を覚えている人はいるだろうか。
タイはアジアの優等生だと煽てられて投資資金が湯水の如く流入していたのである。はめ込みが意図的に行われていたような後味の悪い展開だった。
そしてバーツ危機でアジアがどん底に落ちたとき、投資銀行やヘッジファンドはしたり顔でこう言っていた。
「もうタイは終わりだ」
「インドネシアは終わりだ」
実際、タイの名だたる銀行は軒並み倒産してバンコク銀行でさえ政府の救済が入った。
このときの仕掛け人だったのはジョージ・ソロスというユダヤ人の投機屋だった。
1997年の阿鼻叫喚を、私はいまだに忘れられない
遠い国のひとりの投機家がアジア市場を破綻させることができる。どう考えても納得できなかったが、とにかくそれが起きていた。
世界経済(グローバル・エコノミック)は、その気になれば世の中を破壊することができるのだという事実がそこにあった。
あれほど持ち上げられていたタイが、一瞬にしてめちゃくちゃになった。
愛していたタイという国が、そしてアジア全体が、少数の投機家によって破綻させられていく現状を、私はじっと観察させられることになった。
この1997年の阿鼻叫喚を、私はいまだに忘れられない。
あの頃、バンコク中に失業者が溢れ、ホワイトカラーだった人たちが失意の中でイサーンに戻り、農作業をするようになっていた。
バーツ危機はインドネシアのスハルト政権をも急速に瓦解させたが、暴動に揺れたジャカルタのコタは暴動に焼けただれたビルが数年間も放置されたままだった。
すべては投機家(ヘッジファンド)が直接的な引き金を引いた。
にも関わらず、責任は各国政府の無策に押しつけられて投機家は逃げおおせた。
投機資金が破壊を生み出したことについて、ヘッジファンドはあまりにも無頓着でいる。
それから、しばらく誰もアジアのことなど気にしなくなった。潮が引くようにアジアから引いていったと言ってもいい。
折しもアメリカではITバブルが爆発しつつあったから、みんなそちらに行ってしまった。
慈しんで育てるような投資をして結果を出したい
ところがITバブルが崩壊して駄目になると、またもや投機資金はアジアに戻ってきて大暴れしたのである。それが2006年からベトナムで起きた株式バブルと2008年のバブル崩壊だ。
アジアの時代だと煽り、のぼせ上がる善良な投資家を期待させ、はめ込んだあとに一気に引き上げる。
そんな常套手段が、相変わらず繰り返された。
次は、中国だ、ベトナムだ、インドだ、バングラデシュだ、スリランカだ、インドネシアだ……。
そうやって煽り立て、夢を見せ、カモをはめ込んでから、一気に引き抜く。そのような行動パターンは、これからも繰り返されて行くだろう。
こういったパターンは疑心暗鬼を生み出すので、国の発展を落ち着いて見つめるようなことはしない。
アジアを舞台にした壮大な「はめ込み詐欺」が行われているようなものだ。
そういう世界で生き残れる人は、皆無とは言わないものの、あまりいない。
だから、投資銀行やヘッジファンドやマスコミが何か騒いでいたら、そこに近づかないほうがいい。
誰もが見捨てている時に、愛する国の優良企業にたっぷりと投資して、あとは静かに見守っているのが無理のない投資だ。煽られて投資してはいけない。
私は、傷ついた子犬を拾って、慈しんで育てるような投資をして結果を出したい。東南アジアを愛しているのであれば、市場の浮沈は関係ない。