2018年6月3日、マネーボイスの方に『ソロスが狙う次の通貨危機。養分になるのが嫌なら「タイ株」を刮目して見よ=鈴木傾城 』という記事を上げた。
最近、アメリカの金利が上昇していることから、新興国から資金が抜けるという現象が起きており、上記の記事でも書いたが『アルゼンチンの通貨ペソが史上最安値を更新、トルコ・リラ、メキシコ・ペソ、ブラジル・レアル、インド・ルピーから一斉に資金流出が起きるという状況』になっている。
新興国と言えば、当然のことながらタイも含まれるので、タイ株式市場も変調をきたす可能性がある。株式市場は今年後半から来年にかけて波乱含みの時代になったのだ。
私は資金のほんの少しをタイ株で所有しているというのは以前にも書いたが、タイ株が仮に大暴落するとしてもそれを売る予定は今のところまったくない。むしろ、逆にタイの優良企業の株式をもらっていた配当を使って増やす可能性がある。
PTT(タイ石油公社)は間違いなく買い増す。私はエクソンもシェブロンも保有しているのだが、タイでもしっかりと石油株を保有している。
この記事は2015年のものだが、マネーボイスで記事を上げたことと連動して、改めて読んで欲しいと思い、今回のトップ記事にした。気持ちはまったく変わっていない。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
タイに潜り込んでいるアメリカのスーパーメジャー
私自身は東南アジアを心から愛しているので、ほんの僅かではあるが東南アジアの株式にもコミットしている。
東南アジアは私の人生の中心だった。今も深い関心と共にこの地域を見つめている。(ブラックアジア:東南アジアの株式市場で起きていた「はめ込み」と収奪の歴史)
現在もタイの証券会社を通して、十数社の株式を保有しているのだが、その中で私が最も愛している企業はPTT(タイ石油公社)である。
PTTはタイのみならず東南アジア全域のエネルギーを担う重要企業であり、長期投資の対象として最適な企業であると私は考えている。(ブラックアジア:PTTという巨大企業。タイ株式市場の時価総額から見た企業規模)
この企業はあまりに巨大であり独占体制なので、反トラスト法にも対処しなければならなくなり、最近、石油精製部門を切り離して「スター・ペトロリアム・リファイニング(SPRC)」という企業としてIPOした。
この「スター・ペトロリアム」はPTTが5.4%を持っているのだが、大株主はアメリカのスーパーメジャーである「シェブロン」で、スター・ペトロリアムの60.6%はシェブロンが掌握している。
地球上の石油を掌握しているのは、スーパーメジャーと呼ばれている4社の石油企業である。
・エクソン・モービル(ロックフェラー系)
・シェブロン(ロックフェラー系)
・ロイヤル・ダッチ・シェル(ロスチャイルド系)
・BP(ロスチャイルド系)
この4つの多国籍企業は地球を覆い尽くして石油を支配しており、すべての国で隠然たる力を持つ。
東南アジアにもこの4つの企業が複雑に入り込んでいるのだが、エクソンは「エッソ・グループ」として東南アジアに潜り込み、シェブロンは「スター・ペトロリアム」でタイに関わる。
絶対に自らが表に立たないようにする戦略を採る
欧米のスーパーメジャー4社は、実はタイでも東南アジアでも中東でも中南米でも、その国のエネルギー産業に君臨することができるだけのパワーと財力があるのだが、もちろんそんなことは決してしない。
なぜなら、その国のナンバーワンのエネルギー企業になってしまうと「欧米がエネルギー企業を使って国を植民地にしている」という批判が必ず湧き上がるからである。
2008年頃、中国のペトロチャイナがアフリカ・スーダンで石油事業を一手に引き受けたところ、ダルフールの虐殺者に手を貸していると大批判が巻き上がったことがあった。
実のところ、全世界に網を張っているのは中国よりもスーパーメジャー4社の方なのだが、スーパーメジャー4社は実に巧妙に「君臨」を避けて実体を隠しており、その国のエネルギーを制していても、絶対に自らが表に立たないようにしている。
タイではエクソンとシェブロンの2社が深くエネルギー分野に関わっているのだが、常にシェアはPTT(タイ石油公社)に取らせて自分たちは陰に隠れている。
エクソン・モービルは「エッソ」というブランドで2位、シェブロンは今後「スター・ペトロリアム」という名前でタイのエネルギーに食い込むことになる。
つまり、石油事業ではスーパーメジャーが二位と三位のシェアを持っており、しかもその両者は巧みに名前を隠してタイ国民にアメリカがエネルギー支配をしていると気付かないようにしているのである。
スーパーメジャー4社は200ヶ国以上の国、要するに地球上のありとあらゆる国家に入り込んでエネルギー支配をしているのだが、それがまったく問題にならないのは、自分たちの名前がそこに出てこない戦略を採っているからである。
誰も気付かない中で、エネルギーによってほぼ地球を制覇しているのがスーパーメジャー4社であり、その支配の構図は文明が終わるまで変わらない。
この企業のささやかな株主であることに満足している
では、表に立たされているPTT(タイ石油公社)は単なるお飾りなのかというと、そうでもない。スーパーメジャーが表に立たせているのを見ても分かる通り、東南アジアで最も力を持つ石油企業である。
現在、ミャンマー、カンボジア、ベトナムが国として猛烈な成長を遂げることが予測されているが、こうした国にエネルギー企業として影響力を行使するのがPTTである。
現在、アメリカの世界戦略で石油価格が戦略的に下落しており、これによって全世界の石油企業が悪影響を受けてPTTも同じくベトナム、ミャンマー、インドネシアの石油精製所の建設を凍結を余儀なくされた。
逆に言えば、石油価格に問題がなければPTTはいつでも東南アジア全域に網を張る予定でいるわけである。
PTTは2013年からベトナムのビンディン省に巨大石油精製施設を建設しようと動いていたが、こうした施設が実際に建設・稼働するようになると、次の高度成長国と言われているベトナムから大きな経済的恩恵を受ける。
ミャンマーもいよいよ「開国」を迫られて、アウンサンスーチー氏が欧米の企業を呼び込むことになるが、もちろんスーパーメジャー4社と共にPTTもそこに乗り込む。
実はPTTは東南アジア全域にそのビジネスを広げていかなければならない宿命がある。何にしろ2022にはタイ湾の天然ガスが枯渇する可能性があってビジネスを広げなければならないのである。
他国に向けてビジネスを拡大したいPTTと、安定したエネルギー供給が必要になる東南アジア各国の思惑は一致しているのである。
原油価格の下落によって一時的に頓挫している拡大路線は、いずれ上昇する石油価格と共に再開されるのは間違いない。
つまり、東南アジア全域の成長を取り込もうと思えば、別にそれぞれの国の企業の株式を集めて回らなくても、PTTに賭ければ良いということになる。
私はPTTを売るつもりはまったくない。この企業のささやかな株主であることに満足している。